今年こそオペラデビュー!
それなら超一流を!!
名門ボローニャ歌劇場で
傑作オペラ《トスカ》を楽しもう!
オペラへの興味はあるもののどこから始めればいいのか、というのは誰もが感じるところ。
でも答えは簡単。超一流をまず体験することです。何ごとも初めが肝心。とびっきり素晴らしいものを観て、その良さをまず知ることができれば、きっと「次は何を観よう?」と興味が湧いてくるものです。それには、このボローニャ歌劇場による「トスカ」がうってつけです。
イタリア屈指の名門歌劇場による豪華な引越し公演*で、プッチーニの名作オペラ「トスカ」でオペラ初体験、、、考えただけでも胸がワクワクします。とはいえ敷居が高そうで難しそうで、、、というあなたに、今回はオペラ「トスカ」を優しく紐解きます!
*引越し公演:劇場付オーケストラ、外国人歌手、舞台セットなど全て公演地へ運んで行う公演
イタリアオペラの大家・プッチーニはメロドラマがお得意!?
ジャコモ・プッチーニ
ジャコモ・プッチーニ(1858-1924)は、19世紀末~20世紀初頭に活躍したイタリアの作曲家です。先輩格のヴェルディが、それまで神話や王侯貴族の世界を描いてきたオペラに対して、パリの高級娼婦を主人公にした《椿姫》のような革新的な作品で風穴を開け、もっと現実的で生々しい人間の感情を表現しようと試みたのです。
「トスカ」はプッチーニの円熟期に書かれた彼の代表作。実は《トスカ》の原作戯曲の版元は、オペラ化する権利を当初は別の作曲家に与えようと考えていたらしいのですが、主要登場人物3人がいずれも壮絶な死を遂げる!という残酷さから、この話を任せられるのは、繊細かつ甘美な旋律を得意とするプッチーニしかいないと、彼に託したといわれてます。
では、感情表現に富んだドラマチックなオペラ「トスカ」とはどんな作品なのでしょうか?
ジェットコースター・ドラマ!
そしてどこまでも美しいアリア!
主な登場人物はこの3人
【トスカ】
(マリア・グレギーナ)
ローマ市民憧れのスター歌手で絶世の美女。信仰心に厚く正直な性格。恋人のカヴァラドッシを深く愛しているが、その情熱ゆえに嫉妬深い一面もある。
【カヴァラドッシ】
(マルセロ・アルバレス)
名門出身でハンサムな青年画家。自由主義思想の持ち主で反体制派。政治犯アンジェロッティは親友。
【スカルピア】
(アンブロージョ・マエストリ)
権力を振りかざす旧王政派のローマ警視総監。冷徹なサディストで好色。以前から歌姫トスカへよこしまな欲望を抱いている。
アメリカや韓流をはじめとした海外ドラマは、今や世代を超えて多くの人々の娯楽として楽しまれていますが、この「トスカ」の物語はスッと入り込める、そんなジェットコースター・ドラマだといえます。舞台は1800年6月17日のローマ。主人公は3人。そしてその3人ともに死んでしまいます。物語には、現代恋愛ドラマの要素がふんだんに盛り込まれています。嫉妬、疑惑、殺人。近世ヨーロッパらしいといえば、そこに「拷問」が加わることでしょうか。そして全3幕のこのオペラは1幕がおよそ30〜45分で正味の上演時間は2時間弱と、海外ドラマを3話分観るような感覚で楽しめます。そして!最も注目すべきは「美しいアリア」の数々。「オペラの楽しみはアリア」と言っても過言ではありません。あらすじと共に注目すべきアリア*を次にご紹介します。
*アリア:オペラなどの劇中に、特定の人物が独唱する曲。その人物が強く心を動かされた場面や、物語のターニングポイントで歌われます。
ストーリーを注目 アリアとともに味わおう!
第1幕同志との再会、恋人の嫉妬、嫌な予感
恐怖政治が行われているローマ。人々は権力を振りかざすスカルピアにおののいている。そんな中、脱獄に成功した政治犯アンジェロッティが教会の礼拝堂に逃げ込んでくる。そこでは同じく反体制派の画家カヴァラドッシが、祈りを捧げに来る貴婦人をモデルにマグダラのマリア像の壁画を描いていた。
彼は筆を休めて恋人トスカの肖像入りのメダルを取り出し、絵の中の婦人を見比べて恋人への高鳴る愛の気持ちを歌う…〈妙なる調和〉。
同志2人は再会を喜び合うが、トスカが来たのでアンジェロッティは身を隠す。彼女はカヴァラドッシへの愛を歌い上げながらもモデルの貴婦人に小さな嫉妬の炎を燃やす。それをなだめる彼…〈愛の二重唱〉。
3人が去った後にスカルピアが登場。戦勝を祝う聖歌隊の祈りをバックに、歌姫トスカへのよこしまな想いと邪悪な望みを独白する…〈テ・デウム(聖歌)〉。
第2幕拷問、罠、殺人
ファルネーゼ宮にある警視総監の執務室。政治犯を匿った容疑でカヴァラドッシが尋問されているが何も答えない。トスカが到着しカヴァラドッシは別室に連行される。「さあ、二人だけで友人として話しましょう」と今度は彼女を問い詰めるスカルピア。だが口を割らないので部屋の戸を開けて、カヴァラドッシを拷問して苦痛に満ちた呻き声を聞かせる。とうとうトスカは耐えきれず、アンジェロッティの隠れ場所を洩らしてしまう。それを聞いて彼女をなじるカヴァラドッシだったが、その時ナポレオン侵攻の報が届き元気を取り戻す。
激怒したスカルピアは、カヴァラドッシを処刑するための牢獄に送り、トスカにカヴァラドッシの命と引き換えに貞操を求めて迫る。苦悩する彼女は神に訴えて「歌に恋に生き、信仰を捧げてきた自分に、なぜこのような試練をお与えになるのですか」と歌う…〈歌に生き、恋に生き〉(※ソプラノ屈指の名アリアとして有名)。
ついにトスカはうなだれてスカルピアに屈して、彼の要求をのむ代わりに見せかけの銃殺刑執行の約束をとりつけ、カヴァラドッシと一緒に国外に逃げるための通行許可証を発行してくれるように頼む。
だが彼がそれを書いている最中、トスカは発作的にテーブルからナイフをとり、スカルピアの胸に突き立ててしまう。そして死体になったスカルピアの手から通行証を奪いとり、恐怖と罪の意識に苛まれながら部屋を出るのだった。
第2幕 トスカ
〈歌に生き、恋に生き
(Vissi d'arte,Vissi d'amore)〉
恋人カヴァラドッシの命と引き換えにスカルピアに身体を求められたトスカが「歌に恋に生き、神に信仰を捧げてきた自分に、なぜこのような試練をお与えになるの」と歌い上げる場面で、強靱な声を持つソプラノにとって屈指の名アリア。
第3幕歓喜からの絶望
夜明け前の聖アンジェロ城の屋上。処刑を待つカヴァラドッシがトスカとの愛の日々を追想しながら死への絶望を歌う…〈星は光りぬ〉(※イタリア・オペラを得意とするテノール歌手にとっての極めつけアリア)。
そこへトスカが現れ、処刑は空砲で行われる手はずになっていることを伝える。自由を手にする歓びと愛の勝利を高らかに歌い上げる二人。銃が火を噴き、カヴァラドッシが倒れ、トスカが駆け寄るが彼は本当に撃たれて死んでいた。
スカルピアは最初からトスカを騙すつもりだったのだ。追っ手が迫るなか、すべてを悟った彼女は「おおスカルピア、神の御前で!」と最後に絶叫して、城壁から身を投げる。オーケストラが〈星は光りぬ〉の旋律を劇的に奏でて全編の幕となる。
ちょっと深堀!今回の来日プロダクションの魅力
ココ!音楽監督のリーニフはウクライナ出身。バイロイト音楽祭で初めて指揮台に立った女性指揮者で注目!
ボローニャ歌劇場は1763年創立。世界的なオペラの殿堂、ミラノ・スカラ座と比べると座席数など規模は小さいですが、西欧諸国で最古の大学のひとつであるボローニャ大学で知られる文化レベルの高い国際都市を背景に、ワーグナー作品のイタリア初演を担ってきた歴史を持つ、実力派のオーケストラと合唱団を持つオペラ・ハウスです。かつてのリッカルド・シャイーやダニエレ・ガッティといった、超一流の指揮者が音楽監督を務めてきました。2022年からは、ワグネリアン(ワーグナー好き)の聖地バイロイト音楽祭で女性として初めて指揮台に立ったウクライナ出身の俊英、オクサーナ・リーニフがその大役に就任し、今回の来日公演が音楽監督としての初お目見えとなるため期待度も非常に高くなっています。
ココ!トスカの当たり役!ドラマチック・ソプラノのグレギーナ、ポスト3大テノールのアルバレス
もちろんキャスティングも豪華。タイトル・ロールのトスカは、孤児の身を修道院に拾われて歌の才能を見出され、声の美しさをローマ法王にも認められたという設定になっている不世出の歌姫。信心深くて人一倍愛にも飢えている情熱的な女性。この役を歌うソプラノ歌手にはドラマを支える豊かな表現力と,強い感情に訴えかける説得力を備えた歌唱が求められます。ウクライナ生まれのマリア・グレギーナは、強靭な声と優れた演技力で90年代から世界の名門歌劇場で活躍する、当代最高のドラマティック・ソプラノのひとり。トスカは彼女にとって最大の当たり役と言えるでしょう。一方のカヴァラドッシはローマの旧家の出身という設定。ロマンティストの熱血漢でストレートな性格。加えてお坊ちゃん育ちならではの甘さもあるキャラクターです。アルゼンチン生まれのマルセロ・アルバレスは早くから「ポスト3大テノール」の1人として絶賛されてきた逸材。当初は抒情的な作品で存在感を示し、2000年代半ば頃からドラマティックな役柄へとレパートリーを移して成功を収めてきた、カヴァラドッシ役には打ってつけのテノールです。つまりこの主役2人の共演はまさに理想的。
手に汗握るハラハラのサスペンスと美しい音楽が一体化した人気作品で、初めてのオペラ体験にも自信を持ってお薦めできる《トスカ》を本場イタリアの劇場さながらに体験できるこの機会、どうかお見逃しなく!