演劇やミュージカルの要素を取り入れ、ストーリー仕立で進行する「リバーダンス」などに対し、「トリニティ」は全編ほぼダンスで構成されており、肉体の極限に挑みます。霧の中での神秘的な動きが印象的な「ザ・ミスト(霧)」。世界のトップ・ダンサー、ギャレット・コールマンの驚異的テクニックが充分に堪能できる「トレブル・ジグ」。タップダンスのリズムに乗せて届く重厚な生バンドや哀愁あふれるバグパイプの調べ。ケルト悠久の歴史を舞台に再現、感動の大団円、「ケルティック・サンダー」。大地をうならすタップの洪水は観るものの魂を揺さぶり、整然とした群舞の美しさには自然と涙が溢れます。
アイリッシュ・ダンスの歴史は、イングランドによるアイルランド支配の歴史と非常に密接な関係があります。16世紀にその支配が始まると、アイルランドの伝統的文化活動が一切禁じられるようになりました。厳しい統制は約400年も続きましたが、皮肉にもこうした逆境の中でアイリッシュダンスの原型が生まれ、発展することとなります。民族楽器の演奏が禁止されてから、伝統的なアイルランド音楽の旋律は家の中でひそかに歌い継がれ、またそのリズムは暖炉の火が静かに燃えるその前で、足を踏み鳴らすことによって、親から子へとこっそりと伝えられるようになりました。彼らのアイデンティティを守るための、非常に地道な抵抗運動の歴史と言ってもよいでしょう。
1800年代後半にその支配が解かれると、アイルランド復興運動が起こり、アイルランド人は彼ら独自の文化の建て直しを図りました。長い抑圧から解放された反動から、ステップ・ダンスは爆発的な進化と広がりを見せます。国内では数多くの競技会が開かれるようになり、競技会に勝つためのダンスの技術的な進歩は極めて目覚しいものがありました。
1900年代の初頭にアメリカに渡ったアイルランド移民により、アイリッシュ・ダンスは国境を越えて普及することになりました。タイタニック号の沈没事件は1912年のことですが、映画「タイタニック」でアイルランド系移民の役を演じたレオナルド・ディカプリオが、3等客船の中でタップ・ダンスを踊っていたシーンはまさに象徴的といえます。